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高松地方裁判所 平成5年(タ)7号 判決 1996年3月28日

主文

一  原告と被告とを離婚する。

二  原告と被告間の三女甲野秋子(昭和五一年一一月二二日生)の親権者を被告と定める。

三  原告及び被告の慰謝料請求をいずれも棄却する。

四  原告は、被告に対し、金八五〇万円を支払え。

五  訴訟費用は、本訴、反訴を通じて、これを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  本訴請求

1  主文一項と同旨

2  原告と被告間の三女甲野秋子(昭和五一年一一月二二日生)の親権者を原告と定める。

3  被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  財産分与の申立て

(一) 別紙目録記載の各建物は原告の所有とする。

(二) 被告は、原告に対し、金二七七四万円及びこれに対する判決確定の日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴請求

1  主文一項と同旨

2  主文二項と同旨

3  原告は、被告に対し、金五〇〇万円を支払え。

4  財産分与の申立て

原告は、被告に対し、金一〇二四万九五〇〇円を支払え。

第二  事案の概要

一  原告と被告は、昭和四八年五月二五日に婚姻の届出をした夫婦であり、両者の間には、同四九年二月二三日に長女春子、同五〇年九月一八日に二女夏子、同五一年一一月二二日に三女秋子、同五六年一月二四日に四女冬子が生まれたが、夏子及び冬子はいずれも生後間もなく病死し、春子は既に成年に達している(甲五、原告及び被告各本人)。

二  原告は、離婚原因として、「被告は、平成二年一二月二七日、原告に無断で春子及び秋子とともに家出し、以来、原告と別居し続けて、同居、協力、扶助の義務を履行せず、夫婦生活を継続する意思をなくしているから、原告は、被告から悪意で遺棄されたというべきであり、また、そのため原告と被告間の婚姻関係は完全に破綻している。」と主張し、①離婚、②慰謝料として金五〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払、③財産分与として婚姻後取得した財産のうち別紙目録記載の各建物を原告の所有とすることと、金二七七四万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、なお、④被告の右行為等に照らし、被告には子供を健全に養育する適性がないと主張して、三女秋子の親権者を原告と定めることを求めた(本訴請求)。

三  被告は、離婚原因として、「原告は思い込みの激しい自己中心的な気難しい性格であって、被告が夏子及び冬子を死なせたと言って被告を責めたり、被告や春子及び秋子に対し自分の言いなりに行動させようとし、これに春子らが反抗すると、母親の躾が悪いからだと言って被告を非難するなどした。そのため、平成元年ころ以降、原告と被告間に喧嘩が絶えなくなり、被告は、次第に原告に反論することにさえ疲れ、原告の許から逃げ出さざるを得ないという気持ちになって、やむなく、平成二年一二月二七日、春子及び秋子とともに家を出て別居し、今日に至っている。このようなわけで、原告と被告間の婚姻関係は完全に破綻している。」と主張し、①離婚、②慰謝料として金五〇〇万円の支払、③財産分与として金一〇二四万九五〇〇円の支払を求め、なお、④三女秋子の意思等からしてその親権者を被告とするのが相当であると主張して、その旨定めることを求めた(反訴請求)。

第三  当裁判所の判断

一  離婚請求について

1  証拠(甲五、甲六の一ないし六、甲七の一ないし七、甲一一、甲一四ないし一六、甲二五、乙一、原告及び被告各本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告と被告は、婚姻後暫く勤めに出ていたが、昭和五三年一一月、原告が「日新化成工業」の商号でプラスチック製看板、衣料品入れケース、陳列ケース、案内板等の製造販売業を開業し、被告もこれに専従していた。

(二) 原告と被告は、長女春子が出生したころまでは特に波風のない共同生活を送っていたが、その後、次のようなことがあり、次第に不仲になっていった。

(1) 原告は、春子が出生して二、三か月後に、被告がぐずつく春子をあやしていた際、「ドスン」という音がしたことから、被告が春子を放り投げたと思ってとがめ、被告を足蹴にした。

(2) 二女夏子は、心臓病のため、出生してから約四〇日後に死亡した。春子は、昭和五五年に小学校に入学し、身体検査を受けたところ、心臓にやや異常があると指摘され、精密検査を受けるよう勧められた。そこで、原告は、被告に対し、春子を連れて精密検査を受けてくるように指示した。しかし、被告は直ぐには右指示に従わなかった。そのため、原告は、立腹して、被告に対し、「どうして検査に連れて行かないのか。」などと言って詰ったところ、被告は、「自分で連れて行けばよいではないか。」などといって反発した。

(3) 四女冬子も、心臓病のため、出生してから約五か月後に死亡した。原告は、冬子の生前、その様子から病身であるように感じたので、その旨を被告に告げて注意を喚起したが、被告は、「そうかしら。」と言っただけであった。そして、冬子が重体となって入院し、原告が、夜間、被告とともに看病していた際、つい眠り込んでしまったところ、被告は、「こんな時によく眠れるわ、それでも親か。」などと言って原告を非難し、これに腹を立てた原告は、「何を言っているのか、お前がさっさと病院へ連れて行かないからこういうことになったのだ。」などと言ってやり返した。以来、原告は、「被告が夏子及び冬子を殺したようなものだ。」などと言って、被告を責めるようになった。

(4) 被告は、昭和五九年ころから、原告との肉体関係を拒否するようになった。また、被告は、昭和六〇年六月ころ、老齢で病弱な原告の両親に対し、原告と離婚したい旨を告げ、そのため、原告の両親が非常に心配して精神的打撃を受けた。このようなことがあってから、原告と被告との間で喧嘩口論が絶えなくなった。

(5) 原告は、昭和六〇年七月三〇日、日新化成工業の仕事をしていた際、事故に遭って、頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性頭蓋内血腫等の傷害を負い、長らく治療を受け、左顔面神経麻痺等の後遺障害が残存した。右受傷後間もなくのころから、原告と被告との間で離婚するかどうかについて話し合うようになったが、被告は、原告に悪い点があるから共同生活を続けるためには原告が態度を改めるべきである旨主張し、原告は、悪い点はお互いにある旨反論し、被告は、自分には悪い点はないと言って譲らなかった。

(6) 原告と被告は、喧嘩口論を続けながらも、平成二年まではどうにか共同生活を続けていたが、両者の軋轢は相当なものとなり、被告が、離婚を決意して、同年一〇月五日家事調停を申し立て、原告は自宅の一階で、被告は春子及び秋子とともに二階で別々に生活するようになった。そして、右調停は同年一二月四日不調となったが、被告は、もはや原告との喧嘩口論に耐えられない、逃げ出さざるを得ない、という気持ちになって、同月二七日、春子及び秋子とともに家を出て別居するに至った。

(三) 右のような経緯の後、原告は、離婚を決意し、平成三年五月七日家事調停を申し立てたが、財産分与の点で折れ合いがつかなかったため、同年七月一六日不調となった。原告と被告は、既に五年余にわたって別居しており、互いに共同生活をする意思を全くなくしている。

2  右認定の事実その他本件に現れた一切の事情を総合して判断すると、原告と被告の婚姻関係は、遅くとも別居した当時には完全に破綻していたといわざるを得ない。そして、破綻の原因についてみると、被告が、原告と別居したことは、既に婚姻関係が破綻していたことからして、社会的倫理的非難を受けるに値するほどのものとはいえないから、悪意で原告を遺棄したものとは認められず、また、原告には気難しいところがあることが窺われ、その態度や言動等が破綻の一因であることは確かであるが、他方、被告にも原告を刺激するような不用意な態度や言動等があり、それが破綻の一因となっていることも否定し難く、結局のところ、破綻の原因が、専ら、あるいは主として原告又は被告のいずれか一方にあるということはできず、原告と被告の性格、物の考え方の相違等によるそれぞれの態度や言動等に起因して婚姻関係の回復、継続が困難な状態になったというべきである。

3  そうすると、原告と被告の婚姻関係については、これを継続し難い重大な事由があるというべきであって、原告及び被告の離婚請求はいずれも理由がある。

二  親権者の指定について

三女秋子は、一九歳であって、前記別居以来、引き続き被告に養育されており、被告の親権に服したいとの意向を示していることなどを考慮すると、秋子の親権者を被告と定めるのが相当である。

三  慰謝料請求について

前記のとおり、原告と被告の婚姻関係が破綻した原因が、専ら、あるいは主として原告又は被告のいずれか一方にあるとは認められないから、原告及び被告の慰謝料請求はいずれも理由がない。

四  財産分与の申立てについて

証拠(甲三の二及び三、甲六の五、乙一、被告本人)によれば、原告と被告が婚姻してから別居するまでの間に協力して得た財産は、別紙目録記載の各建物と、家財、家具、預金、貸付金等であって、その価額は、二二〇〇万円程度であり、預金二一二万円は被告の名義で取得し、その他は原告名義で取得していることが認められる。原告本人は、右財産のほか、三〇〇〇万円の預金が存在し、これを被告が隠匿している旨供述しているが、それは、推測の域を出ないものであって、にわかに採用し難く、その他の本件全証拠によっても、そのような預金が存在するとは認め難い。

右財産の額、取得名義その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、原告から被告に対し、離婚に伴う財産分与として、金八五〇万円を給付するのが相当であり、被告から原告に対して財産分与をする理由はないというべきである。なお、原告は、財産分与として右建物を原告の所有とする旨を申し立てているが、右建物は、原告名義で取得したものであり、原告から被告に対する財産分与を右金額の給付に止めることによって、名実ともに原告の単独所有に帰するというべきであるから、右申立てのような宣言はしないこととする。

(裁判官 山脇正道)

別紙目録<省略>

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